ソイツはきっと夢を見ていたんだ。

 学校に行き、友達を作って、恋をする。そしていずれは子を生し、家族に看取られながら死んでいく。

 何の変哲も無い平凡な人生。

 だけど、大切な人がそばにいて、同じ場所に立ち、同じモノを見て、同じ空気を吸う。

 これ以上の幸せがどこにあるのだろう。

 良い人達に囲まれ、全てが揃い、何一つ不自由なものはない。叶わない事はない。

 幸福という色に薫染された人生。

 あまりにも満たされていたから、つい脳裏をよぎった。

 これは自分が見ている、都合の良い夢なのではないかと。

 自分が他人と少し違うのは気付いていたけど、それはこの年老いた世界を、ひいては人類を救うためなんだと信じて疑わなかった。

 その為なら何でもしよう。

 これが自分の夢なら――――いや、夢だからこそ、みんなに笑顔でいてほしいと願った。

 自分の夢だからこそ、なんでもできると思った。

 それは、ソイツが忘れてしまった最初の想い。

 壊れる寸前まで願った最後の想い。

 

 

 

 

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