学校の帰り道で私は気絶しそうだった。

 生れ落ち、歳を重ねて十八歳。自慢じゃないが、お父さん以外の人を隣にして歩いたことがない。

 だけど今日は違う。私の隣には大好きな洵一君がいる。

 これは私の一生分の運を使って起こした奇跡ではないかと思う。でも、それでも構わなかった。

 最初、芦屋さんが現れた時はどうなるかと思ったけど、今はこの状況を作ってくれた芦屋さんには感謝してもしきれないぐらいだ。

 緊張なんてものはとっくに通り過ぎて、傘を叩く雨の音も聞こえないし、いつもなら陰鬱な灰色の景色も、今は虹色に輝いて見える。心臓の鼓動にいたってはさっきから臨界点を突破して、口から飛び出そうだ。

 私に喋りかけてくれているというのに、彼の言葉のほとんどが耳を通り抜けていくから、今すぐ片方の耳を塞いで通り抜けないようにしたいぐらい。気がつけば足ももつれそう。

 

「――わ、きゃ!」

 

 と、いったそばから私の足がもつれた。そしてそのまま前のめりに地面が起き上がってくる。――が、

 

「おっと、大丈夫か国見?」

 

 洵一君が私の肩を支えてくれたから、なんとか事なきをえた。だけど、問題はそこじゃない。

 

 じゅ、洵一君が私に触れている!?

 

 この事実の方が何倍も大事だ。

 それに比べれば、日本上空をミサイルが通過しようが、宇宙人が飛来して、しかも広島弁を喋ろうが、大したことじゃない。

 

「歩けるか?」

 

 洵一君が真剣な顔で心配してくれるのは嬉しい。でも、でも。

 

 顔が近いんです! 目の前なんです!!

 あと十五センチも近づけば、キ、キキキ……が、って私は何を考えてるんだ!

 

 身体に篭った熱が、耳まで真っ赤にしていくのが自分でも分かる。

 あまりの鼓動の音の大きさに、洵一君にまで聞こえてるんじゃないかと心配になった。

 

 はぁ〜、落ち着け。落ち着けよ、国見 舞子。

 

 心の中で深呼吸を一回。

 暴走する気持ちに戒めの釘を。ペシャンコになった理性に空気を入れなおす。

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

 すると、頭の中のグチャグチャしたモノがあっさりと引いていく。

 自分でも近年稀にみる立ち直りの良さ。

 いつもは結局グダグダになるのに、やっぱり本能もこの一大決戦の重要性を理解しているんだ。

 私は今、最大の決戦に、最高のコンディションで臨んでいる!

 さぁ、油断せずにいこう。

 

 

 

 

Z