錆びれた映画館で映写機が回るように、あの頃の日常(せかい)が静かに再生される。

 そこで自分は唯一の傍観者であり、同時に観ることしか出来ない無力な人間の一人だ。

 ブザーが鳴り響き、記憶の幕が今ゆっくりと上がり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年が初めて見たモノ

 それは“死”だった。

 

 少年が初めて触れたモノ

 それは“死”だった。

 

 少年が初めて感じたモノ

 それは“死”だった。

 

 カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、

 

 秒針が時を刻むように、少年は死を刻む。

 

 抱き上げる両親の腕はなく、揺り籠は冷たいコンクリートの地面。

 最初に教えられたのは“言葉”ではなく、死の突きつけ方。

 プログラム言語を打ち込まれたコンピューターのように、ただ愚鈍に繰り返す。

 

 血管はチューブになり、

 

 血は砂に変わり、

 

 感情は信号に変わって、

 

 脳が演算装置になっても、

 

 少年は在り続けた。

“在り続けろ”と、“それがお前の存在意義だから”そう言われたから。

 ただ在り続けた。

 

 少年にとって“死”とは、己であり、全てだった。

 

 

 

 

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